この培養液を使い、一〜ニカ月練習すれば、誰でも細胞を培養することができる
こうした現代的な「細胞培養法」や「基礎培養液」を確立したのは、アメリカの研究者W.Aである
彼は、一九四三年に、マウスの皮下組織から細胞を取り出し、培養することに初めて成功した
「L細胞」と名付けられている培養細胞がこの細胞である
後に、基礎培養液は、米国国立衛生研究所(NIH)のH.Iによって改良され、現在広く使われている
最初のヒトの培養細胞は、L細胞の七年後に、J大学の医師、G.Gによって子宮頚部のガンから取り出されたヒーラ細胞である
L細胞もヒーラ細胞も、数十年以上合間にマウスやヒトのからだから試験管の中に移された手術で切り取られたガンの組織からガン細胞を取り出し培養する手続きを示してある
ガン組織の小片をシャーレの中に入れ、細かく切りきざむ
これにトリプシンというタンパク質分解酵素を加えてしばらく作用させてから、ピペットで吸い込んだり出したりすると組織はばらばらの細胞になる
細胞を適当にうすめてからシャーレの中に入れて、培養を続けるのだが、今でも世界中の研究室で元気に増え続けている
こうして文章に書くと、いとも簡単にガン細胞を培養できるように思うかもしれない
しかし、培養技術が確立している現在でも、なかなか根気のいる仕事である
まず、トリプシンなどのタンパク質を分解する酵素を使ってガンの塊からガン細胞をばらばらにして取り出し、シャーレ(ペトリ皿ともいう)に移し続け、安定に細胞を培養できるようにかってから、細胞のさまざまな性質を慎重に調べる
そうしないと、研究に使える培養細胞とはならない
こうした研究努力が積み重ねられ、現在では、ヒトや動物から、おそらく数万種類以上のガン細胞が得られており、それぞれの細胞の性質が調べられ、さまざまな研究の材料として使われている
アメリカには、培養細胞を登録しておき、必要に応じて分けて供給するための「細胞バンク」があり、日本でも、同じような研究所が準備されている
「シャーレの中で培養されたガン細胞は、どのような性質をもっているのだろうか?果たして、からだの中にあった時のガン細胞の特徴が保たれているのだろうか?」ガン細胞の性質を調べるには、ガンでない正常な培養細胞と比較する必要があること、そして、正常な細胞は、ガンでないヒトや動物の組織から取り出し、培養すればよいことは、すぐ理解していただけるだろう
こうして、いよいよ培養されたガン細胞の性質が暴かれるわけだが、研究者たちは、またしても難問にぶつかるのだ
それは、人の顔が「十人十色」であるように、ガン細胞の「かたち」や性質も千差万別なのである
「胃ガン」、「肺ガン」、「肝臓ガン」と、ガン細胞の由来した臓器による違いもある
個のガン細胞の性質は変化に富み、どの性質がガン細胞としての特徴なのか、よくわからなかったのである
多彩な性質をもち、多様性を示すことが、ガン細胞の本質の一つをついているのかもしれない
そこで、ガン細胞について大変な数の論文が発表されることになる
もちろん、ガン細胞は多様性を示すので、個のガン細胞によって、特徴の一部が欠けている場合もある
こうして、ガンは、ガン細胞という細胞自身の「病気」であるというWの「細胞学説」が実際に証明されたことになる
細胞がガン化すると、その細胞が本来分担していたさまざまな機能のうち、どれがどのように失われるかは
ガン細胞によってまちまちで、いわば、「ガン細胞の個性」を示すものである
もちろん、ガン細胞はただ単に異常な増殖を示すだけでなく、さまざまなタンパク質、ホルモン、酵素などの活性物質を作り続けているといった「個性」を示す培養ガン細胞が多数報告されている
このようなガン細胞は「機能しているガン細胞」と呼ばれ、そうした活性物質やその遺伝子を取り出すための貴重な材料となっている
ガン、肉腫そして白血病胃ガン、肺ガン、肝臓ガンなどのように「ガン(癌)」という言葉がつくもののほかに、骨肉腫や筋肉腫など「ニクシュ(肉腫)」と呼ばれる病気があって、同じように転移したり、手遅れになることがあって、悪性の病気である
「ガン」と「ニクシュ」との区別は、病理学からみた病気の分類で、ともに、悪性の細胞が増えてあばれ出す病気である
私たちのからだの外側は皮膚で包まれているが、一つ一つの臓器もそれぞれ皮膚に似た組織、これを「上皮組織」というもので包まれている
袋や管の構造をもつ胃腸や血管、肺などの管腔の内側にも、上皮組織がある
このように組織の境界を作っているのが上皮の細胞で、上皮細胞から発生するものを「ガン」と呼んでいる
「ニクシュ」は、上皮で包まれた、臓器の内部組織の細胞から発生するものをいう
さらに、「血液のガン」といわれるさまざまなタイプの白血病や、「骨髄のガン」、骨髄腫もある
癌、肉腫、白血病を合わせて、「悪性腫瘍」または「悪性新生物」と呼んでいる
腫瘍とは、本来、「ハレモノ」を意味する言葉である
ハレモノには悪性のものがある一方で、「良性」と呼ばれているものもある
いぼ(把)や子宮筋腫などは、こうした良性の腫瘍である
病気が「良性」というのはじつにおかしな話だが、良性腫瘍は、細胞が増殖してハレモノにはなるが、決して、組織の境界を越えて増えたり、転移したりすることはなく、ふつう、手術で切り取ってしまえば命取りになることはない
私たちのからだのタンパク質、糖質、脂質、骨格など、すべての成分は酵素の働きで作られる
酵素はタンパク質の一種である
酵素を含めてさまざまなタンパク質が、からだや細胞の主な成分となっており、働きの主役を握っている
タンパク質は20種類のアミノ酸がさまざまな順番と組み合わせで多数結合したもので、アミノ酸の並び方は遺伝子の命令によって決められている
逆にいえば、遺伝子の上の情報によってさまざまなタンパク質が作られ、タンパク質によって体がかたちづくられ、その働きが営まれているのだ
このようにして、ヒトを含めたすべての生き物のかたちと働きは遺伝子の情報によって支配されている
このことは、生物学の基本的な原則となっている
遺伝子は、通常、DNA(デオキシリボ核酸)という化学物質からできている
DNAは非常に長い鎖が二本らせん状に結合したかたちの分子である
それぞれの鎖の上にはアデュン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という四種類の物質−これを「塩基」と呼ぶが数千から数万個つながっている
この四種類の塩基が文字となって、その並び方で遺伝子の情報が書かれている
DNA分子の二本の鎖の間では、塩基の並び方に規則性がある
片方の鎖のAとGに対して、もう一方の鎖では、必ず、それぞれTとCがあい対する
それは、AとTの間では二本の、GとCとの間では三本の化学結合ができるが、それ以外の組み合わせでは結合できないからである
つまり.DNA分子の二本鎖の間で、AとT、GとCの結合が、ファスナーを閉じたように
二本のらせん分子を結合させているのだ
この化学結合は「水素結合」と呼ばれる弱い結合で、二本鎖DNA分子のらせん構造はこの結合によって安定に保たれている
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